上野千鶴子「家族はこれからどうなる」

http://www.sole-kochi.or.jp/files/s162/vol020/page03.htm

 近代家族には3つの特徴があります。1つは夫婦中心性。結婚と同時に家族が形成され離婚すると解散ということ。2つめは子ども中心性。子どもを育てるために家族がある。3つめは血縁の凝集性。おじやおば、奉公人などの同居人がいなくなり、家族の中で「血のつながりが大切」という思いこみが近代になってかえって強くなりました。
 60年代、恋愛結婚が見合いを追い抜き、工業化する社会変動につれて、女性は男性の将来を選んで結婚するようになり、だれもが結婚する全員結婚社会となりました。夫一人で一家の経済を支えることが可能だったから安心して専業主婦になれたのですが、これは日本経済が右肩上がりだったからできたことでした。一方、核家族化が進み子どもの数は4人台から2人台へ半減していきます。
 90年代になり倒産やリストラ等で終身雇用制は崩壊。連動して終身結婚制も揺らぎ、近代家族も崩れ始めました。シングルが増加して、晩婚化、非婚化がすすみ、合計特殊出生率が1.32まで下がり、少子化が進んでいます。
 出生率低下のもっとも大きな原因は婚姻率低下ですが、その理由には「男性は経済の自由を失い、女性は時間の自由を失って、結婚すると損だから」だという結果が出ています。裏返せば「一家の大黒柱になる夫、家事を受け持つ妻」という夫婦や結婚のイメージは、一世代前の結婚観と同じなのです。三高型結婚願望があるから「いい人いないわよね症候群」になる。実際に結婚しても、1人目は産んでも、夫の協力が得られなかったり、子育てのストレスが理解されない状況では、もうあと1人なんてとても産めないということになります。そのうえ少子化で「普通に育ててあたりまえ。失敗は許されない」と子育てにプレッシャーがかかります。このままではとても子どもを産んでもらえないでしょう。子育てに他人の力を借り、社会の風を入れて「子育ては家族だけの責任ではない」という合意を形成して、介護と同様に、子育ても社会化する必要があると思います。
 これからの家族は、シングルインカム、ダブルインカムよりも「マルチインカム」。一人一人の持ち寄り家計で、肩を寄せ合って生きるしかない。その意味では1人より2人、人数の多いほどゆとりがでるのではないでしょうか。育児・介護を私事化した近代家族はもう限界。これからは、近代家族を脱して、他人も入るようなさまざまな家族をつくり、持続できる社会を考えていきたいですね。