訪問介護労働者の法定労働条件の確保について



 単なるクリップ。
 厚生労働省の通達『訪問介護労働者の法定労働条件の確保について』(平成 16 年 8 月 27 日付 基. 発第 0827001 号)の抜粋(http://www.jcp.or.jp/akahata/aik3/2004-09-27/01_02.htmlより)


 そもそも、今の介護報酬単価(公定価格)の設定において、零細な福祉事業所内部での労使交渉がどこまで正常に成り立つのか?という素朴な疑いもある。
 かといって、全ての経営責任を国・市町村に丸投げして、足元の福祉経営の努力を棚上げするスタンス(もと運動家系の事業所などに有りがち)にも疑問はあるが。
 いずれにせよ、まっとうな根拠に基づいた、まっとうな介護報酬単価が設定されないと、どうにもならない(しかし、その「根拠」は何か?勉強しないと)。

 一面所報のホームヘルパーの労働条件にかかわる厚労省通達の抜粋


 「労働基準法等関係法令に関する理解が必ずしも十分ではない事業場が少なくないことなどから、賃金、労働時間等に係る法定労働条件が適正に確保されていない状況がみられる」「このような状況を踏まえ、今般、訪問介護労働者に係る労働基準法等関係法令の適用について、下記のとおり取りまとめたところである。」「関係事業者団体への周知、集団指導の実施等により、この内容を徹底し、訪問介護労働者の法定労働条件の確保に遺憾なきを期されたい。」


 1 定義等


 (1)本通達における訪問介護労働者の定義


 「介護保険法に基づく訪問介護の業務に従事する訪問介護員等については、一般的には使用者の指揮監督の下にあること等から、労働基準法第9条の労働者に該当するものと考えられること。」


 (2)訪問介護労働者の勤務形態


 「非定型的パートタイムヘルパー(注・いわゆる登録ヘルパーなど)は、訪問介護労働者の多数を占めており、利用者からの訪問介護サービスの利用申込みに連動して、月、週または日の所定労働時間が非定型的に特定されるため、労働条件の明示、労働時間の把握、休業手当の支払、賃金の算定等に関して、労働基準法等関係法令上の問題点が多くみられること。」


 2 訪問介護労働者の法定労働条件の確保上の問題点及びこれに関連する法令の適用


 (1)労働条件の明示


 「訪問介護事業においては、訪問介護労働者の雇入れ時に、労働条件の明示がなされないことやその明示内容が不十分であることなどにより、労働条件の内容を巡る問題が生じている場合も認められるところであるが、労働条件の明示に当たっては、以下の事項に特に留意する必要があること。」


 ア 労働契約の期間


 「非定型的パートタイムヘルパー等については、労働日と次の労働日との間に相当の期間が生じることがあるが、当該期間も労働契約が継続しているのかどうかを明確にするため、労働条件の明示に当たっては、労働契約の期間の定めの有無及び期間の定めのある労働契約の場合はその期間を明確に定めて書面を交付することにより明示する必要があること。」


 イ 就業の場所及び従事すべき業務等


 (2)労働時間及びその把握


 「訪問介護事業においては、非定型的パートタイムヘルパー等が訪問介護の業務に直接従事する時間以外の時間を労働時間としていないものが認められるところであるが、訪問介護労働者の移動時間や業務報告書等の作成時間などについて、以下のアからエにより労働時間に該当する場合には、適正にこれを把握する必要があること。」


 ア 移動時間


 「移動時間とは、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。」


 イ 業務報告書等の作成時間


 「業務報告書等を作成する時間については、その作成が介護保険制度や業務規定等により業務上義務付けられているものであって、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当するものであること。」


 ウ 待機時間


 「待機時間については、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。」


 エ 研修時間


 「研修時間については、使用者の明示的な指示に基づいておこなわれる場合は、労働時間であること。」「実質的に使用者から出席の強制があると認められる場合などは、たとえ使用者の明示的な指示がなくとも労働時間に該当するものであること。」


 (3)休業手当


 「訪問介護事業においては、利用者からの利用申込みの撤回を理由として労働者を休業させた場合に、休業手当を支払っていないものが認められるところであるが、労働日及びその勤務時間帯が、月ごと等の勤務表により訪問介護労働者に示され、特定された後、労働者が労働契約に従って労働の用意をなし、労働の意思を持っているにもかかわらず、使用者が労働日の全部又は一部を休業させ、これが使用者の責めにきするべき事由によるものである場合には、使用者は休業手当としてその平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないこと。」


 (4)賃金の算定


 ア 「訪問介護事業においては、訪問介護の業務に直接従事する時間以外の労働時間である移動時間等について、賃金支払の対象としているのかどうかが判然としないものが認められるところであるが、賃金はいかなる労働時間についても支払われなければならないものであるので、労働時間に応じた賃金の算定を行う場合は、訪問介護の業務に直接従事する時間のみならず、上記(2)の労働時間を算定した時間数に応じた賃金の算定を行うこと。」


 イ 「訪問介護の業務に直接従事する時間と、それ以外の業務に従事する時間の賃金水準については、最低賃金額を下回らない範囲で、労使の話合いにより決定されるべきものであること。」


 (5)年次有給休暇の付与


 「訪問介護事業においては、年次有給休暇について、短期間の契約期間が更新され6カ月以上に及んでいる場合であっても、例えば、労働契約が一カ月ごとの更新であることを理由に付与しない例が認められるところであるが、雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤している場合には、法に定めるところにより年次有給休暇を付与する必要があること。なお、年次有給休暇の付与条件である『継続勤務』とは、在籍期間を意味し、継続勤務かどうかについては、単に形式的にのみ判断すべきものでなく、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであること。」


 (6)就業規則の作成及び周知


 「使用者の中には、短時間労働者である訪問介護労働者については、就業規則の作成要件である『常時10人以上の労働者』には含まれないと誤解しているものが認められるが、短時間労働者であっても『常時10人以上の労働者』に含まれるものであること。」「就業規則については、常時事業場内の各作業場ごとに掲示し、または備え付ける等の方法により労働者に周知する必要があること」「非定型的パートタイムヘルパー等への周知については書面を交付する方法が望ましい」


2 労働条件の明示
 <採用の際、使用者は、契約期間の定めの有無及び期限付きの時は契約期間を「明確に定めて」、それを書いた書面を渡さなければならない>
 ・利用者の希望に基づき、指定された日・時間だけ働くヘルパーの場合、勤務日と次の勤務日の間があくことがあるが、その間も労働契約が継続しているのかどうかをはっきりさせるため。
 ・そもそも、使用者は、採用の時に、契約期間・勤務時間・賃金などの労働条件を書いた書面を渡さなければならない(労働基準法第15条第1項、労働基準法施行規則第5条第1項、同条第3項)。
 

 <有期の労働契約の場合は、更新の有無及びその判断の基準を契約の際に明示しなければならない。また雇い止めの際には、30日前までに予告しなければならない。>
労働基準法第14条第2項、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(第357号)


 <労働契約を更新するときは、その都度、改めて労働条件を明示する必要がある。>


3 労働時間にはいるもの(労働基準法第32条)
 <移動時間>
 事業場・集合場所・利用者宅の相互間を移動する時間の取扱い。
 ・使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、労働者がその時間を自由に利用できないときは労働時間に該当する。
 ・たとえば、事業場→利用者宅や利用者宅→次の利用者宅の移動時間で、その時間が通常の移動に必要な時間程度であれば該当する(労働者の判断で寄り道していない)。


 <業務報告書等の作成時間>
  ・「その作成が介護保険制度や業務規定等により業務上義務付けられているものであって、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当する」。


  <待機時間>
  ・「使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当する」。
 

  <研修期間>
  ・「使用者の明示的な指示に基づいて行われる場合は、労働時間」
  ・「研修を受講しないことに対する就業規則上の制裁等の不利益な取扱いがある場合や研修内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことより、本人の業務に具体的に支障が生ずるなど実質的に使用者から出席の強制があると認められる場合などは、……労働時間」。


4 休業手当
 <利用者からキャンセルや時間変更があったために休みになったときの取扱い>
 ・勤務日・時間帯が勤務表により特定された後、労働者が労働の用意をし、労働の意思を持っているにもかかわらず、使用者が就業(全部または一部)をキャンセルしたときは、使用者は、平均賃金(時給制の時は、時給)の60%の休業手当を支払わなければならない。
 ・他の利用者宅での勤務等の代替勤務をさせた場合、勤務時間帯や勤務日の変更をした場合には、手当の支払いの必要はない。


5 賃金の算定
 < 訪問看護の業務をした時間だけではなく、上記3の時間も含めて賃金を支払わなければならない>
 ・訪問介護の業務をした時間とそれ以外の業務をした時間の賃金については、労使の話合いにより決定されるべき。
 ・賃金と最低賃金とを比較するときは、使用者から支給される、移動に必要な交通費は、賃金として計算しない。(訪問介護は、利用者宅に移動して業務に従事することを前提とするものなので、移動にかかる費用は事業の必要経費)


6 年次有給休暇
 ・6ヵ月以上継続勤務している人に対して、短期間(たとえば1ヵ月)の契約の更新だから有休を認めない、という取扱いはできない。
 ・(労働基準法第39条の)「継続勤務」とは、「在籍期間を意味し、継続勤務かどうかについては、単に形式的にのみ判断すべきものでなく、勤務の実態に即し実質的に判断すべきもの」。
 ・勤務日が固定していない、いわゆる登録ヘルパーなどの場合、有休日数算出の基礎となる所定勤務日数は、基準日(権利が発生する日)において予定されている今後1年間の所定労働日数だが、算出しにくい場合には、基準日前の日数による。(たとえば、雇い入れから6ヵ月たった人の場合、「過去6ヵ月の勤務日数×2」を「1年間の所定労働日数」とすることができる)
 ※パートタイマーにも有休はある。有休の日数は、常勤の人の有休日数×週の所定勤務日数/5日(週により違う場合は「年」単位で計算)。勤務日数は、勤務した時間の長短に関係なく「1日」として数える。


7 就業規則
 ・パートタイマーも、就業規則作成の要件である「常時10人以上の労働者」に含まれる(月ごと/週ごとに勤務日を指定される登録ヘルパーも含まれる)。
 ※「常時10人以上の労働者」を雇うものは、就業規則を作成しなければならない(労働基準法第89条)。
 ・登録ヘルパーについては、就業規則を書面にして渡すことが望ましい。
就業規則は、各作業場に掲示したり、備えつけたり、各労働者に書面にして渡したりして周知しなければならない(労働基準法第106条第1項、労働基準法施行規則第52条の2)。