『NHKにようこそ!』

 ありとあらゆるダメ人間が、そしてダメ人間を魅惑する「罠」が、スラップスティックにこれでもかとばかりに登場する(オンラインゲーム、マルチ商法、自殺オフ会などなど)。主人公のひきこもり青年を「わたしよりダメな人はあなたしかいない、あなたが必要!」と言い切るヒロインの岬ちゃんには、爽快な凄みがある・・。サイテーにやな奴だけど。オタク+そのダメさに惹かれるヒロインという構造は、『蹴りたい背中』的ではある*1。ある意味、こういう「ダメさ」をこそ愛してくれる美少女の存在は、オタク的心性の理想像でもあるんだろうか。「あなたにはダメじゃない部分もあるからそこを愛する」のではなく、「あなたは本当にダメだ、それゆえそのダメさを愛する」ということ。性愛的な「一発逆転」には、これしかない*2。杉田的には「ひきこもり」と「オタク」はかなり違う人種と理解しているのだけど(オタクの基本感情はプラスのハイパーインフレ、ひきこもりの基本感情はマイナスのデフレスパイラル)、このマンガは、ひきこもりに対する「オタクの勝利」をシンボリックに告げているんだろうか。実際この作品の読後感は明るい。重苦しさがない。4巻には「岬ちゃん」のフィギュアが付くみたいだし。ある意味すごい。すべてパッケージし、マーケット化する貪欲さ・・。ひきこもり産業、は確実にあるわけだけど。

 

NHKにようこそ! (1) (角川コミックス・エース)

NHKにようこそ! (1) (角川コミックス・エース)

 
NHKにようこそ!(3) (カドカワコミックスAエース)

NHKにようこそ!(3) (カドカワコミックスAエース)

 

*1:ある人から聞いたんだが、『蹴りたい背中』は、オタク男子にとって「萌え」要素にあふれているらしい。人付きあいもあまりなく微妙なアイドルを追っかける不気味な男子を、勝手に追いかけてきて背中を蹴っ飛ばして部屋から引っ張り出してくれる女の子なんだから。しかも自分で「処女」とか言っちゃうカマトトぶりが、不思議と嫌味ではない。その意味で、この作品は文学史的にも記念碑的なのだとか。この小説は割とすき。

*2:しかし、主人公男子の欲望は、この美少女=愛玩対象に、永久にたどりつかない。微妙につかず離れずの関係が延々と続く。『カリオストロの城』(79年)あるいは『うる星やつら』『タッチ』(81年〜)的な。こうゆうのを契約的な「マゾヒズム」(ドゥルーズ)とでもいうんだろうか。アニメやギャルゲーの影響で犯罪に走る、という解釈は疑わしいけど、この抽象レベルでの「人間関係」の転移には気になるものがある。例えば、ギャルゲーを前にやってみて驚いたのは、主人公が、複数の女性と葛藤なく恋愛・肉体関係に入れること。にも拘らず、一つひとつの女性との関係は「純愛」なのだ。このメンタリティは、ラブコメとか村上春樹的小説とも確かに地続きな気がする。複数の女性から理由もなく愛される「僕」。多重人格性がどうこう、と言ったらつまんないけど。