『行動援護ガイドブック』

 目を通す。
 福祉の教科書、的な印象がまずある。
 行政とのやり取りの表面部分は語られるが、「行動援護」が必要とされ立ち上げられた生々しい政治・運動的過程は、このガイドブックからは伺い知れない。当然かな。実際の所、行動援護は(見直しがあるにせよ)既に正式な制度にのったんだし、そこに込められた理念云々より、単価云々、利益云々で多くの事業所はまずは動き、その中であれこれ不具合が微調整されていくだろう。単価激減・移動介護の来年一〇月廃止もあり、当然ではある。支援者を読者に想定して書かれた内容なのだから、そのやりきれなさを抜きに教科書的に書かれても、今は肩透かしの感がある。仕方ないとは思うけど。


 「強度行動障害」と「行動援護」の関係は、どんな感じだろう。このガイドブックだと、行動援護の対象者を前者より少しひろく、ゆるく捉えている感じがある。「少し支援が大変な自閉症者・知的障害者」を対象者に含める、というか。「強度」の行動障害がある人、に限っていない(もちろん「強度行動障害」というわく自体に議論の積み重ねと歴史があるのだろうけれど)。
 だが、点数式の対象者判定基準表を見ると、強度行動障害のそれよりも、行動援護のそれの方がかなり厳しい。まんべんなく、定期的に「問題行動」がない人は10点に至らず、対象にならない。この辺がどうも腑におちない。どういうロジックなんだろう*1
 日本知的障害者福祉協会の作成だから、知的障害児者支援の視点から書かれているが、行動援護は当然精神障害者の支援(そして精神病院での社会的入院者の退院促進)を念頭に置くし、認知症の人のこともある。精神の方、認知症の方の視野から見ると行動援護はどう見えるのだろう。これも気になる。
 「5時間以内」と制限され、移動だけでなく身体介助などを含み、また自宅などどこで使ってもいい。これは従来の移動介護より、むしろ「マンツーマン対応のデイサービス」のイメージ――なるほど。何かピンと来た。逆に、通所先が受け入れ困難な行動障害がある人を今後は自宅で見よ、というニュアンスもあるのかな。初めから言われるが、この「行動援護」の存在を逆手に取られ、地域移行を逆行させる流れを作るのは、やりきれない。施設で対応できない人を自宅で母親一人でみるなんて! するとヘルパー事業所の役割と範囲はさらに拡大される。施設系支援者の「対応困難」の声から制度化の始まった強度行動障害の人への(行動面にとどまらない)地域生活的・発達段階的な総合的サポートのノウハウも、しっかり学ばないと。そして重度包括支援などと同じで、時間払いよりも、包括払いがベースになりつつあり、ああケアマネだなあと思う。


 すでにこのガイドブックも、行動援護自体の是非を問うのではなく、行動援護のスタートを既に自明視し、そのわくをいかによりよくしていくか、有効利用するか、というスタンスであり、下記の指摘などもまあリアリズムとして正しいんだろう。

個別給付としての移動介護がなくなるという方向性であることを考えると、行動援護への移行作業は、いつかはやらなければならない事務作業ですから、先延ばしにせず取り組んで欲しいと思います。



 『障害者問題研究』(全国障害者問題研究会)の「特集 自閉症・知的障害等の「強度行動障害」」の論文を、数点読む。何人かの人の顔(精神病院に入っている人、施設でも対応が厳しく転々としそうな人…)が浮かぶ。さて。【後日、一部修正しました。24日】


障害者問題研究 第33巻1号

障害者問題研究 第33巻1号

*1:【後記】id:lessorさんのページで知ったんだけど、行動援護の新しい判定基準が出たようだ。全国地域生活支援ネットワークのページ→http://shiennet.blog6.fc2.com/blog-entry-13.html。なぜか基準表はリンク先がひらけないが、「全体的にかなりマイルドな表現に。結果として、行動援護の対象になる人の範囲が広がるように思います」とのこと。・・ところで「日本知的障害者福祉協会」と「全国地域生活支援ネットワーク」の関係がよくわからなかった。